「この世」を「夢よりも淡き」世界だと言っているのだ。作者の世界観だろうか。われわれは現実の「この世」を確固た …
徒然やぎしぎし揺らす籐の椅子『吉野』
長谷川櫂には「籐寝椅子」を詠んだ句がいくつかある。〈籐寝椅子果実のごとき女あり〉(『蓬萊』)は印象派の絵画に …
蓬萊や夏は大きな濤の音『吉野』
大きな濤の音が聞こえている。現実に起きていることは、ただそれだけである。 蓬萊とは古代中国の伝説の山である …
大空はきのふの虹を記憶せず『柏餠』
この句は句集『柏餠』(2013)に収められている。この時には前書きはないが、2023年11月号の「古志」に「 …
衣なき人とならばや更衣『柏餠』
人は人と関わって生きていく。しかし、時には人間関係が煩わしくなってしまう。もうよい、一人で生きていきたい、と …
花菖蒲莟のうちはよかりけり『柏餠』
花菖蒲の莟は手拭いを絞り上げたような形をしている。きりっと引き締まっている。やがて莟は緩やかに解けてゆく。こ …
失恋の顔をしてゐる胡瓜かな『柏餠』
夏の朝、緑艶やかに育った胡瓜に鋏を入れるのは、恋のときめきに似る。しかし収穫時期を間違えるととんでもないこと …
山人の切つて手桶に山つつじ『唐津』
この句は『唐津』のうち「吉野 一」に収められている。したがって場所は吉野山ということになる。「山人」は山を仕 …
陀羅尼助でござりますると蟇『唐津』
陀羅尼助(だらすけ)は腹痛の薬。吉野・大峯山の山伏たちが広めたとされる、古くからある薬で、元禄の頃に商品化さ …
咲く花も散りゆく花もすべて如意『唐津』
句集『唐津』(2012)の帯には「富士、近江、吉野をへて西海の唐津へとたどる旅の句集」とあり、掲句は「吉野 …