満開の桜の花があっという間に散ってしまうとその儚さに宴の後のような虚しさを感じるが、それも一瞬のこと。瑞々し …
花過ぎの朝のみづうみ見に行かん『古志』
一見、只事であるが、それを免れているのは、重なる「の」の働きであろう。これが「花過ぎに」や「花過ぎの朝に」で …
春の月大輪にして一重なる『古志』
櫂三十一歳の第一句集『古志』の四番目に置かれた句である。ここには十代、二十代の句を纏めている。花を修辞する「 …
春の水とは濡れてゐるみづのこと『古志』
この句は難しい。一つ一つの言葉は、シンプルである。また、取り合わせではなく、一物仕立ての句であり、「春の水」 …
風鈴やしんと戦争ありにけり『太陽の門』
最後がもし「ありけり」であれば、むかし戦争があったそうだということになるが、この句は「ありにけり」。つまり、 …
福島をかの日見捨てき雪へ雪『太陽の門』
「福島」は原発事故を含む東日本大震災を指すと同時に、普遍的な災害というもの(または集団的な死)の暗喩ともなり …
龍の骨月の光に埋もれけり『太陽の門』
大きく非情な自然詠のようだ。鳥瞰図の風景が目前に広がる。黒々とした山に囲まれた長大な湖あるいは大河の水面に月 …
一切は定家葛の夢の中『太陽の門』
この句は、作者の第五句集『虚空』(2002年)にある〈虚空より定家葛の花かをる〉という句を受けている。200 …
青空のはるかに夏の墓標たつ『太陽の門』
本来、青空は誰の墓場にもなり得ない。墓標はそこに遺体が埋葬されたことを示す。ならば、なぜ遺体が埋まっているは …
夏の炉のしづかに人を忘れけり『太陽の門』
どこか避暑地の冷え込んだ一日であろうか。夏にもかかわらず、思わぬほどに肌寒い。外には風が吹いている夕方か、炉 …