人類の冬の思想の深みゆく『沖縄』

 「思想の冬」と「冬の思想」は言葉としては似ているが内容は全く違う。「思想の冬」は、国際情勢や社会の変化で思想が停滞している場合や、独裁政治によって思想の自由が脅かされている状況を表している。「冬の思想」はある思想の内容を表している。
 句集『沖縄』の後書きによれば、この句は2013又は2014年の作となる。鉄腕アトムが生まれた2003年を過ぎ、戦後の各分野での明るい未来のベールが次々に剥がれてゆき、映画『ブレードランナー』の世界が現実味を帯びてきた。そこで、それまで囚われていたユートピア的な視点を捨て、世界を冷徹な目で見直そうとする思想が「冬の思想」ではないか。そして、その思想が全世界で同時に進化していると作者は詠んでいる。
 それから、十数年たった今、全世界はそうなってきたか。冬が極まって冬至となり春へと転換しつつあるのか、それとも過冷却水のように少しの刺激で一気に氷結する世界なのか。現在が、人類の22世紀の世界を決める分岐点であることは確かであろう。(稲垣雄二)

 掲句を声に出して読むと、この世界の深淵を覗きこんでいくようだ。文字にすれば、真っ白な世界が広がる。白に濃淡があるならば、最も濃い白である。
 「冬の思想」をどのように解釈すればいいだろう。古代中国の「陰陽五行説」の哲理であろうか。一切の万物は陰陽二気によって生じ、木火土金水の五つの元素で成立するという説である。因みに冬は「水」である。これら元素の消長により天地の変異、災祥の吉凶を説明する。掲句は「人類の」と大きく切り出され、作者はこの世を俯瞰の視線で捉えている。まるで万物すべてがこの宇宙の塵であるかのように。
 夏は気持ちが外へと向かうが、寒い冬は内省的になり、時として人を哲学者にする。掲句の「の」の三つの畳みかけは読者を深々とした世界にいざなう。
 本句集の装幀に心惹かれる。カバーの赤は琉球の赤であろうか。きれいな韓紅色だ。素敵である。(谷村和華子)