明けてゆく地球の顔を初鏡『震災歌集 震災句集』

 年明けが一番早いのは、日付変更線に隣接するキリバス共和国。ニュージーランド、オーストラリア。やがて日本。韓国、中国、インドなどと続き、さらに中東、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ大陸の国々、ハワイへと至る。次第に明けてゆく地球の様子は、宇宙の側からはどんな風に見えるだろうか。争いが絶えず、天変地異が続き、宇宙空間にも大小無数のさまざまの廃棄物を放出し続けるわが地球。
 この句は、初明りを宇宙の側からダイナミックに捉える。そして問いかける。鏡に映る地球の姿を、私たちは誇ることができるのか、初鏡に恥じるところはないのか、と。
 『震災歌集 震災句集』の文庫版(2017年 青磁社)には「おはやう地球」という題で、『震災句集』(2012年)前後の句が収録されている。災害を詠んだ句が多い。掲句はその中の2016年1月の句。同年4月に熊本地震が発災する。
 前年2015年の新年、作者は熊本県の母校・小川小学校5年生に〈おはやう地球冬空果てしなく青き〉という句を贈っている。こちらは、地上の側から見た地球だ。想像力を広げて、ひろく地球全体を見渡そうと子どもたちに呼びかけている。掲句は、この句に付けた、宇宙の側からの「おはやう地球」の賀詞だ。(長谷川冬虹)

 文庫版『震災歌集 震災句集』(青磁社)は、東日本大震災を詠んだ『震災歌集』(2011年)と『震災句集』(2012年)を合わせ、2017年に出版された。新たに加えた「おはやう地球」は『震災句集』前後の句から選んだとある。掲句はその中の一句。
 「明けてゆく地球」はどのような表情なのだろう。「初鏡」は初化粧や晴れ着等を映す、華やぎを感じさせる新年の季語だ。そこに映る地球の顔は晴れやかで、まさに「おはやう地球」と言いたくなる。
 作者は「天災や戦争は夥しい死をもたらすが、死とは本来、日常的なものである。いつも人間の生のかたわらに微笑みながらそっと寄り添っている。死の日常性を思い出させてくれたのも東日本大震災だった」と、あとがきの「微笑む死」で述べている。天災や戦争でずたずたになった地球が初鏡に映れば、上記の言葉にある「死の日常性」を否応なく突き付けられる。
 読み手は、自身の初鏡を覗き込むことになる。そこに映しだされる「明けてゆく地球の顔」は果たして…。(木下洋子)