宮沢賢治が教師をしていた花巻農学校跡には賢治の愛した銀どろの木が植えられ、今は「ぎんどろ公園」となっている。銀どろの葉は薄く数センチの長さで葉裏が銀白色なので「ぎんどろ」と呼ばれている。
掲句のすぐ後には〈銀どろの銀の枯葉の五六枚〉が続く。俳句としてはこちらのほうが「銀の枯葉」と、「銀」を二度繰り返していることから、思いがけず葉を手にしたときの喜びがよく表れ、すぐれている。
掲句は単なる報告のただごと俳句ともとれるが、「人」で終わっていることからこの句になんともいえない柔らかみを与えている。そして、その枚数は五六枚と次句が説明している。
葉を送った人と受け取った人との日常のささやかなやり取りがかけがえのないものと思わざるを得ないのは、この二句が『震災句集』に入集され、未曾有の東日本大震災の句群にそっと置かれているからだ。また、一冊の句集のめりはり、緩急とも言うべき句の並べ方のヒントがここにある。(齋藤嘉子)
銀どろは柳の一種で、宮澤賢治が好きだった樹だ。賢治が教鞭をとった花巻農学校跡のぎんどろ公園には、賢治も見ただろう背の高い銀どろの木がある。「ミンナニデクノボートヨバレ/ホメラレモセズ/クニモサレズ/サウイフモノニ/ワタシハナリタイ」。「雨ニモマケズ」の末尾に至る一節だが、この「デクノボー」のイメージは、銀どろの木ではないか、と私はひそかに思っている。華やかさなどと無縁な、無器用そうな地味な木だ。
花巻市生まれで北上市在住の古志同人・及川由美子さんには『ぎんどろ』という名の瀟洒な句集がある。
銀どろの葉は少し厚手で、本にはさんで栞のように用いることができる。
歌を添えて花や紅葉を贈ったりするのは、『源氏物語』などでも印象的だ。掲句では、これが銀どろの葉ですよ、と手紙に添えられていたのだろうか。
『震災句集』(2012年)は、東日本大震災で被災した東北地方への励ましの句集でもある。掲句は、銀どろの葉への返礼の句であり、送り主の心遣いを讃えている。(長谷川冬虹)